■ 松本糸魚川連絡道路(松糸道路)について & 安曇野を世界遺産に!
>> 農林水産省 「世界かんがい施設遺産」
>> International Commission on Irrigation and Drainage (ICID)
こんにちは、みつばちです。松本糸魚川連絡道路(長野県松本市と新潟県糸魚川市を結ぶ、通称「松糸道路」)は40年以上も前から検討されていて、未だ計画段階の高速道路(正確には「地域高規格道路」)です。
安曇野と松糸道路
初めてこの道路計画の存在を知ったのは今年の5月、安曇野の水鏡が美しい季節でした。ドライブ途中に偶然見つけた明科(あかしな)の広大な水田地帯(ブログの中で「ウユニ湖」として取り上げた水田がある場所)が、この高速道路の建設予定地だと知ったときはショックで泣きそうになってしまいました。
>> ■ 安曇野にウユニ塩湖出現!日本の春の水田で天空の水鏡(みずかがみ)観賞
長野県のHPで詳しい資料を見ると、高速道路だけではなく「安曇野北IC」というインターチェンジの建設も提案されているとのこと。その新しいICの予定地が上の写真の場所なんです(このブログで使っている水田の写真は全てその建設予定地の写真です)。新ICは安曇野IC(旧豊科IC)から3キロの場所。高速道路全体(安曇野~大町)の総建設費540億円~980億円、(現在既にある道路を使った所要時間に比較して)短縮時間13~14分だそうです。
安曇野市内は道路がいっぱい。もちろん大北地域へ行くルートは既にいくつもあり(オリンピック道路、国道147号、県道51号、山麓線など)車の流れも速いです。「オリンピック道路」はその名の通り、長野オリンピックの時に作られた道路です。ちなみに「大北地域」というのは大町市と北安曇郡(池田町、松川村、白馬村、小谷村)から成る一大観光地で、説明の必要もないと思いますが、自然景観に優れ、レジャーだけでなく、仁科神明宮(国宝)に代表されるように長い歴史と伝統ある地域なのです。
>> 長野県公式website 地域高規格道路『松本糸魚川連絡道路』について
>> 説明会スライド資料
黄色い線が「松糸道路」の建設予定地の帯状イメージ。安曇野のシンボルと言っても良い三川の合流点や周辺の御宝田などの美しい水田群の真ん中を大きく横切り、大王わさび農場もすぐ近く。
(説明会スライド資料P19「ルート帯のイメージ」)
東京では今、築地市場の移転先である豊洲市場が大問題になっていますが、安曇野では古来からの由緒ある聖域のような場所(「御宝田」)に建設される高速道路。豊洲がニュースに登場する度、安曇野の高速道路問題を思い出して暗澹とした気持ちになってしまうのです。
全方位に優良な農地や水源、貴重な観光資源がある安曇野に、わざわざ大きな犠牲を払ってまで新たな高規格道路を建設する理由は私にはあまり感じられません。
長野自動車道も既に整備されており、糸魚川方面には他にも規格や利便性の高い道路があります。自然環境・観光資源・災害・生態系への影響などを総合的に考慮して、ルートを慎重に再検討してみてはどうでしょうか。
日本の建設会社の技術力を持ってすれば、どんなルートでも対応できるはずです。地元のかたの様々なアイデアも参考にして、「その手があったか!」というような奇跡のルートが発見されることを心の底から願っています。。。
安曇野を世界遺産に!
松糸道路の背景にある課題(そしてその多くは他の地域でも課題となっていることだと思いますが)、例えば観光促進、少子化対策、生活インフラの確保、医療、災害対策、など。主に人口増加、賑わい、財源の確保が目標のベースにあるように思います。その解決方法のひとつとして、安曇野が世界遺産になれば、現在の自然や景観が守れて、なおかつ産業・経済にも多大なメリットがあり、地域ブランド力が向上し、全員が笑顔になれると思います。
安曇野が世界遺産になれば。。。
長野県ほど観光資源に恵まれた県はないはずなのに、いまだ一つも世界遺産がないことが信州ファンの私としては非常に残念です。そこで「安曇野」は候補にならないのかな?って、ふと思い立って世界遺産の条件を調べてみました・・・
>> 日本ユネスコ協会連盟 公式HP 世界遺産活動 「世界遺産の登録基準」
あくまで素人である私の個人的感想ですが、北アルプス、水資源、水田が広がる文化的景観ということで考えると、安曇野は少なくとも(v)(vi)が当てはまるように思います。皆さんはどう思われますか?
(v) 安曇野は北アルプスの伏流水、河川、湧水と水資源が豊富であるにも関わらず、古くは河川の上流域を除くほとんどの場所が意外にも長い間、地表に水が無い不毛の地でした。それを一変させたのが、当時の最先端技術で作られた拾ヶ堰(じっかせぎ)です。日本から他の農業用水施設と並んで世界かんがい施設遺産の候補として申請された実績もあります。他にも1654年に開削された矢原堰など、安曇野にはいくつも歴史ある堰の遺産が生きています。
>> 国土を創造した人々「安曇野水土記」
北アルプスの山々の雪形(ゆきがた)は農業との関わりも深く、長く自然暦としての役割がありました。安曇野では常念岳の「常念坊」(田植えの時期を知らせる、黒い着物を着たお坊さんの形)などが有名です。日本を代表する昆虫研究家で自然写真家の田淵行男氏も雪形に深い関心を寄せました。
また、安曇野の水田群は稲作だけでなく、広大なわさび田湧水群があるのが大きな特徴です。
日本百名山「常念岳」、信濃富士とも呼ばれる「有明山」などを擁する北アルプスと、その山麓に広がる田園の景観が里山文化、自然と人間の調和を象徴しています。
(vi) 穂高神社(本殿は穂高、奥宮は上高地の明神池、嶺宮は奥穂高岳頂上)、式年遷宮、穂高人形大飾物(平安時代~)、古代安曇族の歴史(稲作の伝播)、本宮例祭の御船祭(おふねまつり、現存する最古の記録は1689年の御船祭)、泉小太郎伝説、八面大王伝説、有明山神社と魏石鬼窟(ぎしきのいわや)、道祖神、そして多田加助を中心とした貞享騒動も。
このように安曇野市だけでも世界遺産へトライする価値が十分あると思いますが、古くから松本以北も広義の安曇野地域でした。歴史的にも文化的にも深いつながりがあります。だからできれば安曇野市だけでなく、松本市、大町市、池田町、松川村、白馬村、小谷村などと一緒にひとつの文化圏、景観を有する「大きな安曇野」として北アルプス、山岳、水田、山麓の里山文化などをキーワードに一致団結することはできないものでしょうか。
特に上高地などは穂高神社と縁が深く、穂高神社の御祭神である穂高見命(ほたかみのみこと)が降臨した場所として別名「神降地」「神合地」とも呼ばれ、周囲16,000坪が神域だそうです(出典:『図説 穂高神社と安曇族』 穂高神社 監修、龍鳳書房 編 P23)。上高地までを含む北アルプスが自然遺産の要素として認められると共に(vii からx )、文化遺産としての条件もクリアできれば、安曇野が日本初の「複合遺産」になれる可能性も ?! 秘めています。
歴史を知ると、荒地だった安曇野に毛細血管のように水路を建設し、命がけで水田を守り開拓してきた先人と、その結果つくられた現在の安曇野の、大自然と人間の営みが調和した美しい景観に改めて感動を覚えます。
道路が地域にとって貴重な、あるいは世界遺産となる可能性のある歴史を有する文化遺産や自然遺産を横切ったり、分断したり、破壊したりしてしまうとすれば、それはとても残念なことではないでしょうか。
木曽・阿寺渓谷の参考事例
今年2016年4月に木曽路が日本遺産に認定されました。長野県初の世界遺産登録へ向けて期待が膨らみます。
その構成文化財のひとつとして阿寺渓谷(あてらけいこく)があります。数年前、初めて阿寺渓谷を訪れたとき、ブルーグリーンの透明な水に癒されました。しかし、(当時は既に中止決定後でしたが)この美しい渓谷にダムが建設される予定だったという話を聞いたときは心底愕然としました。ダム建設予定の話があがった当時、見納めにカメラやスケッチブックを抱えて、この美しい渓谷が消滅してしまう事を惜しんだ方がたくさん押し寄せたそうです…。日本遺産に認定された木曽エリアに、もうダム建設の話が再燃することは無いでしょう。
ですから、安曇野もまず日本遺産に登録するとしたら。。。という視点で総評価してほしいです。後で「しまった!」ということのないように保護すべき文化財、切り札となる景観は守っていってほしいな、というのがファンとしての心情です。
信州デスティネーションキャンペーン
2017年7月1日から9月30日は信州デスティネーションキャンペーン(DC)が開催されます。デスティネーションキャンペーンとはJRグループと自治体が一体となって行う大型観光キャンペーンのことで、前後の年の同期間にプレとアフターキャンペーンを加えて3年に渡り行われるようです。「世界級リゾートへ、ようこそ。山の信州」というキャッチフレーズで、山の日制定、世界級の山岳高原リゾート、滞在型観光といったテーマを訴求していくとのこと。
>> JRグループ「信州デスティネーションキャンペーンの開催について」
来年の本キャンペーンに向けて新型あずさの本格導入や大糸線乗り入れの直通便の増加があれば嬉しいです。
また、今回のような県内外の課題について、長野県がこのキャンペーンで表明しているような、将来を見据えた誇り高い姿勢で臨んでいくことは大切なことだと感じました。
安曇野が安曇野でなくなる日?
安曇野は安曇野だけのものでなく、日本のふるさとの象徴です。このまま自然破壊が進むと安曇野が安曇野でなくなってしまう日がいつか来てしまうような気がしてなりません。
失われつつある日本の田園風景に3,000m級の荘厳な北アルプスの景観という、世界でも類を見ない「生きた遺産」が安曇野です。
明科地区の長峰山から眼下に広がる安曇野一帯の景色を眺めた川端康成、井上靖、東山魁夷の三氏はその眺望を「残したい静けさ、美しさ」「安曇野は何と美しかったことか」と絶賛したと伝えられています。
現在に生きる我々も皆、この言葉を今一度、深く考えてみてはどうでしょうか。